社会にもなれてきた3年目。
「そろそろ、自分の趣味でも見つけようかな」
そう思って昔やっていた武道を始めた。
きゃしゃなら身体だけど、剣道2段の腕前♪

家の近くに武道館があるから、仕事帰りにフラッと寄れるし自分が1から何かをする元気もないと自覚していたから
学生時代にずっと頑張っていた剣道を始めた。

「久しぶりに着るから、着なれないや・・・
だけど、この感触。懐かしいな。」

少し緊張、少しワクワク。気分を高めて道場に入った。
やっぱり冬の道場は身体の芯まで冷やしてくれます・・・。

周りを見渡すと、どうも見覚えのある名前が目に飛び込んできた。
「あ・・・もしかして」
あの背丈、あの構え方、あの動き・・・。
稽古を始めていた、その男性は紛れもなく昔愛した人だった。
1つ下の守君。彼が稽古をしているの。

あまりにも突然の再会に、忘れていた淡い思い出がよみがえってきた。
結局片想いで終わった彼との恋。
あれから何年も月日が経って私も、何人か男性と付き合ってきて愛してきた。
だけど、片想いで始まって片想いで終わった相手は彼だけだ。
恋なのか、たんに懐かしくて心がうずうずしているのか解らない感情があたしを襲った。

初日なだけに、私は軽く身体をならす程度で終わった。

「話し・・・したいな」

そう思っていた気持ちが、まだ稽古を終えていない彼を待つと言う行動をとった私。
ロビーで一人待つ自分が、懐かしかった・・・。
「昔もこうやってわざと待ってたっけな」
そう思って思い出に浸っていると、一人の男性が階段から下りてきた。
彼だ・・・
待っていたと気づかれないように、わざと携帯なんていじってみたりして、ロビーで休んでいるように見せかけていた。
彼がアタシの存在に気づいた。そして「あれ?」と言う顔でコッチに近づいて来る。
「もしかして・・・、あゆみさん?」
緊張が一気にピークにまで達していたけれど、平然を装っていた。
「え?・・・あ!守君!どうしたの〜?」
本当は待っていたくせに・・・。本当は話しかけて欲しいと願っていたくせに。

彼はまだ学生。週に2度、ココの道場で身体を温めているらしい。
何も変わらない彼の笑顔、声、仕草。一つ一つがあたしの心に何かを思い出させていた。
何か・・・解っていた。「恋心」を思い出させていたのだ。

「あゆみさんがいるなんて〜。嬉しいなぁ!今から予定あります?ご飯でもどうですか?」
「え?良いわよ」
驚くなんてカッコ悪い事したくなかった。嬉しいなんて顔見せるのは絶対嫌だった。

剣道を始めて1ヶ月ほど経った。
その間いつも彼と話しをたくさんした。今まで話せなかった事を全て聞くかのように・・・。
でも、彼は彼女がいるか。知らない。それだけは聞けなかった。
彼も聞いてこない。私は「いない」と言いたかった。

懐かしさから現れた、恋心と言う1つの感情。
とっても心地よかった。ほんのり苦いけれども暖かくて・・・。

もう少しでバレンタイン。
その日は調度稽古の日。彼が来たら告白をしたい。気持ちが高まっているのを感じてしまった私は
昔伝えられなかった気持ちも今の気持ちも全て彼に伝えたくなっていた。
彼に出会う為に、今までの男と付き合っていた・・・。
彼と結ばれる為に、たくさんの経験をしてきた・・・。
そう思いたかった。こんなにも、片想いが心の中に残っているとは思っていなかった。
当日、彼は稽古にやってきた。
いつも通りに稽古をして、私がロビーにいると、彼がやってきた。
いつもと変わらない彼が私の元にやってきた。
「あれ?今日はバレンタインなのに早く帰らなくて良いんですか〜?」
「言われなくても、もう帰るわよ」
あなたに・・・全てを伝えたら。。。

いつものように、私の隣に座って話し始めようとした時・・・。
彼の携帯に電話が・・・。
「もしもし」「うん」「解った、今から行くね」
淡々と話が終わったが、どんな会話なのか大体見当がついた。
「彼女?」
私は、始めて彼に「自分以外の女性」の話をした。
「えぇ」
笑顔の彼に何も言葉が出なくなった。
「早く行ってあげなさいよ。あたしも、もうすぐ彼から電話あるから」
(うそつき・・・)
「それじゃ!」彼は足早に私の元から去っていった。

「結局また片想いで終わったか・・・。」
そう思った瞬間、私の心じゃなくて身体が勝手に彼を呼びとめていた。
「待って!」
ロビーに響き渡るアタシの声。
彼はビックリした様子で、私の方を見た。
私は、彼の元へ走っていった。

小さいけれど、自分で作った手作りチョコレート。
「はい。これ」差し出した次の瞬間。
「余り物だけね」
そんなこと言うつもりなんてなかった・・・。
だけど、やっぱり強がりたかった・・・。
「え?あ・・ありがとう」
彼は笑顔で私の手作りチョコレートを受け取った。

「昔の好きだった人にも・・・食べてもらいたくてね」
私の事言葉に一瞬固まった彼。
「昔・・・え?俺・・?!」
動揺を隠しきれない様子の彼。
「そうだよ。あ!勘違いしないでね!昔だってば!」

本当は、「今でも気持ちが加熱してます。」
そう言いたかった。だけど、これは言うべきじゃないと思ったし言いたくなかった。
最後まで、姐御肌の自分でいたかった・・・。

「ありがとう」
彼の言葉が胸に染みて、涙が出そうになった。
だけど、泣くわけにはいかない。

「早く行きなさいよ!彼女待ってるわよん」
彼の背中を押して、彼を彼女の元へ届けた。

これでよかったんだ。これが良かったんだ。
自分に言い聞かせて、友達に電話をした。
「ごめ〜ん、暇だから相手してよ〜」
泣いてる暇なんて作りたくないんだ。泣いてる自分を作りたくないんだ。

あたしは、いつだって泣かない女。

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